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続江戸ぶらり散歩 後編 [だるま広報]

8月24日、今朝、先日一枝枯れた小品の小原の四季桜が花を付けているのを発見。この暑さの中、異常に早い開花なので驚く。
それよりも、団子坂から三崎坂へ進み、さくら並木通りに入っただるまさんの「江戸ぶらり散歩」を追っかけてみたい。
ちょっと長くなるのだが、ガイド付きの旅行気分で最後まで行っちゃおう。

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 続江戸ぶらり散歩②
      東谷山六兵衛

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   谷中霊園さくら並木通りを歩く
 そろそろ正午だ。お日様が真上に上っている。
 汗がヒゲから滴り落ちる。谷中墓地の桜並木通りの木陰に逃げ込んだ。さくら並木通りのはずれに明治の毒婦といわれた高橋お伝の墓がある。以前小塚原の回向院でも鼠小僧と並んで建っているお伝の墓に出会った。私とは縁があるのだろうか。

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 墓の少し先には谷中天王寺の駐在所があった。墓に入ってまで監視しされているとは大した貫禄である。
 新聞小説で大反響を呼んだ仮名書魯文の『高橋阿伝夜刃譚』で毒婦高橋お伝は有名になり、魯文の呼び掛けで明治14年1月処刑後の三回忌に墓が建立された。建立者は小川市太郎とある。お伝の最後の夫である。寄贈者名が墓石の後ろに刻まれているが歌舞伎の守田勘弥、尾上菊五郎、市川左団次、市川団十郎、噺家の三遊亭圓朝など当時の錚々たる顔ぶれである。
 お伝が毒婦と呼ばれるようになった経緯について少し書き加えたい。
 お伝は最初の夫が悪病に取付かれ、寝たっきりになったので見るに見かねて毒殺し、他の男のもとに走った。
 その男と共に借財を重ね悪事を働く。浅草蔵前の旅館に姉の敵といわれている金貸しの男の誘いに乗り同衾するが男が金は貸せないと言い出したので、逆上して殺害し金を奪って逃げる。やがて逮捕され斬首の刑に処せられる。時代は明治になっており、お伝は打ち首に処せられた最後の女囚であるといわれている。お伝の遺体は解剖せられ、その性器が悪女の標本として長い間、東京陸軍病院に保存されていたという。
 しかし魯文はお伝を明治維新から捨て去られた貧農の娘として捉えており、お伝に殺された男も昔、姉を騙して殺した男で敵討ちだと。お伝に同情的に書いている。
 落語で高橋お伝の名前が出てくる「転宅」という噺がある。旦那から大金を渡された妾を見た泥棒が妾の家に押し入るが、脅しても妾は全然怖がらない。それどころか、私もご同業だよと、嘘を言う。その時妾が「私のおばあちゃんは高橋お伝だよ」と啖呵を切ると泥棒は「お見逸れしやした。恐れいりやした」と頭を下げる。形勢逆転、男は妾と夫婦約束をさせられてしまい、約束の証として財布を取り上げられてしまった。次の日に行くと妾の家はもぬけの殻、妾は引っ越してしまった後である。泥棒が逆に金を巻き上げられてしまうという他愛のない噺である。泥棒の世界でも高橋お伝は当時のヒロインであったのだろうか。
 霊園の花屋のおばちゃんの話によるとお伝の墓はお参りすると三味線や踊りなど習い事が上手くなるという言い伝えがあるそうな。成程墓前には花が手向けられ、線香の煙がゆらゆらと風になびいていた。
 お伝の話が長くなった。この桜並木通りを歩いていると有名な人たちの墓や碑が建ち並んでいる。お伝の墓のすぐ隣には自由民権運動で名を馳せたおっぺけぺ節の川上音二郎の台座があり(ただし銅像はなくなっていた)、すぐ向かいには新国劇の創始者沢田正二郎の墓がある。気になったのは有名人の墓の前に置かれている石の名刺受けである。あの世で名刺交換をするのだろうか。
 少し歩くと幸田露伴の五重塔跡や蛍坂を下ると岡倉天心記念公園、東洋のロダンと呼ばれた朝倉文夫の朝倉彫塑館がある。明治が息づいている町であった。

   王子の狐に会いに行く
 都電荒川線町屋駅から都電に乗り、王子駅に向かう。
 この電車は荒川区の三ノ輪橋駅から早稲田の停留場まで12.2㌔を約56分で結ぶ都内唯一の都電である。運賃は均一料金170円,、マナカを使うと165円であり時間と暇を持て余す身には非常にありがたい。最近では東京さくらトラムと呼ぶのだそうである。駅名も巣鴨新田、鬼子母神前、面影橋など江戸の名残を感じることができる。車窓から見る風景は入り組んだ路地、昔からの神社や夏祭りの露店など昭和に立ち返ったような気がする。20分ほどで王子駅前につく。この辺りは電車が路面を走っている。車が電車を追い越していく。
 ここは約半世紀前、大学受験で上京した時に従兄の下宿があり、ここに転がり込んで約三カ月過ごした懐かしい思い出がある。よくきた駅の裏の映画館はもうない。
 駅の隣には飛鳥山公園がある。落語の『花見の仇討』の舞台になったところだ。しかし真夏の飛鳥山は興ざめである。山を登るだけで汗が噴き出る。やっとの思いで上まで辿り着くと飛鳥山碑(東京都教育委員会)が目に留まった。
 碑によると八代将軍吉宗が桜の苗木を植えた。数年経って花が咲きだすと江戸庶民にも開放され、多くの水茶屋もできて江戸庶民の花見の名所になった、と書いてある。
 享保の改革は庶民の締め付けだけでなく、花見も奨励したようである。余談だが飛鳥山碑の原文は達筆な文字使い過ぎて読めるものは滅多にいなかったそうである。
飛鳥山なんと読んだか拝むなり、という川柳も残されていると案内板に書いてあった。
 飛鳥山を下りていよいよ落語『王子の狐』の舞台になった王子稲荷に向かう。王子神社に沿って歩くと王子稲荷が見えてくる。お稲荷様の隣は保育園の園庭になっていて、正面の楼門からは中に入れない。園の中では暑さも何するものぞ、と子供たちが大声を出して遊んでいた。

王子の狐 (002).jpg 
 
 保育園脇の急坂を上り、横の鳥居をくぐって社殿にお参りする。この『王子の狐』という落語は人間が狐を騙すという噺である。
 ある男が王子の稲荷さんに参ろうと田舎道を歩いていると稲穂の陰で若い娘に化けている狐を見つける。
「いい女だね。いったい誰を化かすつもりなんだろう。
 騙されたつもりで騙してやろうか」と男は昔の知り合いのような顔をして馴れ馴れしく声をかける。
「お玉ちゃん。きれいになったねえ」。狐も調子を合わせて「あら、お久しぶり」。男は久しぶりで積もる話もあるからと扇屋という馴染みの料理屋に連れていく。
 そして狐のお玉に調子のいい話をして飲んだことのないという酒を無理やり飲ませ、酔っぱらわせてしまう。
 男は酔っぱらって寝ているお玉を料理屋に残し、「連れは酔っぱらって寝ています。もう少し寝かせてやってください。勘定は目を覚ましたら連れの女から貰ってください」と土産の卵焼きまで持って先に帰ってしまう。
 お玉が何時までも降りてこないので店の者が起こしに行き「お連れの方は先に帰られました。勘定はあなたから貰ってくれといって帰りました」。びっくりしたお玉は慌てふためいて狐の姿に戻ってしまう。「狐に化かされたー」お玉は店の者に袋叩きに合い、命からがら扇屋から逃げ出した。その場に帰ってきた店の主人は騒ぎを聞いて店の者を叱りつける。「王子のお稲荷さんのおかげで商売させてもらっている。ご馳走して帰ってもらうのが当たり前だ」。店を早じまいして早速、王子のお稲荷様にお詫び参りをした。一方、狐を騙した男は自慢げに友達に話し、土産の玉子焼を渡すが狐を騙すと祟りはある、と脅されてぼた餅を土産に狐の穴にお詫びにいく。
 ちょこちょこと出てきた子狐に「この辺にケガをした狐はいないかい」と聞くと「うちのおっかさんだよ。昨日悪い人間に騙されて大けがして帰ってきたよ」「おじさんのせいなんだよ。つい悪ふざけしてしまったよ。これはお詫びのしるしだ。おっかさんに謝りにきたと伝えておいておくれ」といってぼた餅を置いて帰っていく。これを聞いた母狐は「これを食べるんじゃあないよ。馬の糞かもしれない」これがオチだが人間が狐を騙すとは随分罰当たりな話である。狐は古来、稲荷神の使徒とされており稲荷は五穀豊穣、商売繁盛の神様である。

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 現代は「この男」が可愛く見えるほど弱者を騙す巧妙な詐欺が横行している。この噺は現代を予見して作られたような噺である。
 噺を思い浮かべて大鳥居の下を見ると二匹のお狐様がすました顔で鎮座ましている。噺のせいか何となく間の抜けた愛嬌のある顔にみえる。本殿は鬱蒼と生い茂った大木の陰にあり、お参りをして暫しの涼をとる。社務所の傍に『願掛けの石 狐の穴跡』と書いた表札がある。
 お石様の社殿には座布団の上に漬物石大の石が置いてあり、軽く持ち上げられると願いが叶うそうだ。やっとこさ持ち上がったが、このへっぴり腰では大願成就は覚束(おぼつか)ないだろう。社殿の奥には奉納された土焼の狐がずらりと並んでこちらを見ている。狐の世界に引っ張り込まれるような不気味さを感じた
 本殿の脇から狭い石段を登る。高い木立がおい繁り、狐の洞にふさわしい霊気が漂っている。洞の前の小さな稲荷堂の両脇に鎮座する二匹の狐はキッ、とした表情で洞を守っている。しかしこの石の狐には金網がかぶせてあった。落書きや、石を砕いて持ち帰るような悪さをする人間がいるのだろう。狐もおちおち休んでいられない世の中である。王子稲荷の大鳥居を出ると西に傾きかけたお日様が容赦なく私を照らす。風もパタリと止んでいる。首にかけた手拭いで汗をふきふき急坂を下っていると、汗だくの私を見兼ねたのか園児のお迎えのお母さんが「わぁー暑そうですね。もう少し下りると涼しい滝のある公園がありますよ」と教えてくれた。早速そちらへ向かう。名主(なぬし)の滝公園と呼ばれ、立派な薬医門を潜ると滝の水音が聞こえてくる。木陰に座って一休みする。老人憩いの家が園内にあるが暑さのせいか人影は少ない。
 滝の水を手に掬い、頭を冷やすとやっと人心地つけた気分になった。滝の音を聞きながら木陰でウトウトしていると、「ここは暑いから憩いの家の中で休みなさい。クーラーも効いてるわよ」とおばあさんが声を掛けてくれた。お言葉に甘えて休ませてもらう。おばあさんは冷えたお茶まで出してくれる。シャキッとした江戸言葉は耳に心地よく響く。「夏はこの辺りは何もないわよ。権現様の夏祭りはもう少し先だし。それより上野不忍池の蓮は今が見頃だわよ。夕方だから開いている花は少ないかもしれないけど池一杯の蓮は見事ですよ。帰る途中で寄ってみたら」丁寧にお礼をいって王子駅に向かう。
 まだ帰るには早いし途中で不忍池の池によってみるか。電車を待ちながらそんなことも考えた。
                                   終 

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この「続江戸ぶらり散歩」、3回分割でアップしようと思っていたのだが、幽霊から始まり、つい落語に釣られて2回で済ませてしまった。そこへ、だるまさんから「志段味八景犬公戯(22)」(しだみばっけいわんこのたわむれ)が届いた。
ちょっと小原の四季桜も気になっているのだが、今度はロクちゃんに関わりがあって短文でもあるので明日も「だるま広報」でいっちゃおう!


東京の感染者が47日ぶりに2桁になった。
安倍ちゃんの健康問題で周辺が慌ただしい。
春以来の盆栽展案内ハガキ(名古屋市西区庄内緑地)が届いた。春に来た他市の案内は追っかけて中止のハガキも届いたのだが、今日のハガキは「開催については公式サイトでご確認のうえ」と、注意書きがある。来月中下旬なので期待できるだろうか。
大村さんが愛知の緊急事態宣言と休業要請を解除した。

なんだか大きな潮の変わり目のように見えるのだが、私としてはもうしばらく様子を窺いたい。


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